Prof. Dr. Larry AdamsAcademic, Author & Researcher

SERIES III

WORK, PRESSURE AND THE JAPANESE WORKPLACE

第13巻

過労死を超えて――働きすぎの先にあるもの

― 命、健康、家族、尊厳、仕事、そして人間らしく生きるための社会を考える ―

著者

Prof. Dr. Larry Adams

はじめに

「働きすぎ」は、単なる疲労ではない

「忙しいです。」

「最近、仕事が大変です。」

「残業が多くて疲れています。」

私たちは、このような言葉を日常的に聞く。

しかし、「忙しい」という言葉の背後に、どれほど大きな人間的コストが隠されているのだろうか。

睡眠時間が減る。

家族との時間が減る。

友人との関係が薄くなる。

運動する時間がなくなる。

食生活が乱れる。

心の余裕がなくなる。

そして、ある時点を超えると、単なる疲労ではなく、深刻な健康問題につながる可能性がある。

日本では、この問題が「過労死」という言葉によって社会的に認識されてきた。

日本政府は「過労死等防止対策推進法」に基づき、毎年、過労死等の状況と防止のための施策を国会に報告している。2025年版の「過労死等防止対策白書」は、この法律に基づく第10回目の白書であり、労災請求・認定の動向、重点業種、長時間労働、メンタルヘルス、ハラスメント防止などを分析している(厚生労働省, 2025a)。

しかし、本書のテーマは「過労死」だけではない。

本書のテーマは、

過労死の手前に存在する、数えきれない人間的コスト

である。

病気になる前の疲労。

燃え尽きる前の消耗。

家族関係が壊れる前の孤独。

退職する前の絶望。

心身の健康を失う前の「小さな警告」。

これらもまた、働きすぎのコストである。

だから本書は、「過労死を超えて」というタイトルを持つ。

私たちが目指すべきなのは、死者数を減らすだけではない。

人間が壊れるほど働かなくても生きていける社会をつくることである。

目次

第1章 過労死とは何か

第2章 過労死の手前にあるもの

第3章 働きすぎる身体

第4章 働きすぎる心

第5章 睡眠を失った社会

第6章 家族が支払う見えない代償

第7章 孤独、疎外、そして人間関係の喪失

第8章 「頑張れる人」が最も危険になるとき

第9章 職場文化がつくる過労

第10章 管理者と企業の責任

第11章 ハラスメントと心理的安全性

第12章 デジタル時代の「終わらない仕事」

第13章 若者、キャリア、そして未来

第14章 女性、男性、子育て、介護と過労

第15章 仕事の意味を再考する

第16章 休息は生産性の敵ではない

第17章 個人にできること

第18章 組織にできること

第19章 社会にできること

第20章 過労死を超える未来

第21章 30日間の回復と再設計プログラム

終章 人間は仕事より大きい

著者からのメッセージ

参考文献

第1章

過労死とは何か

1.1 「過労死」という言葉

「過労死」は日本社会で長く議論されてきた言葉である。

法律上、「過労死等」には、業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡、仕事上の強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡、さらに死亡には至らない関連する脳・心臓疾患や精神障害などが含まれる(厚生労働省, 2025a)。

これは重要な定義である。

過労死は単純に、

「長時間働いた結果、疲れた」

という意味ではない。

仕事上の過重な負荷と健康被害との関係を社会的に認識する概念である。

1.2 2014年の法律

日本では2014年に「過労死等防止対策推進法」が成立した。

同法は、過労死等を防止するための施策を総合的・効果的に推進し、過労死等のない社会の実現を目指す枠組みを定めた。

そして政府は毎年、過労死等の状況と防止施策について国会に報告することになっている(厚生労働省, 2025a)。

1.3 数字の向こうに人間がいる

統計表には数字が並ぶ。

請求件数。

認定件数。

死亡者数。

精神障害。

脳・心臓疾患。

労働時間。

しかし、その一つ一つの数字の背後には、

父親がいる。

母親がいる。

夫がいる。

妻がいる。

子どもがいる。

同僚がいる。

学生がいる。

友人がいる。

一人の人間の人生がある。

だから過労死を研究することは、単なる統計分析ではない。

人間の人生について考えることである。

第2章

過労死の手前にあるもの

2.1 死亡だけを見てはいけない

過労死は最も深刻な結果の一つである。

しかし、その手前には多くの段階が存在する。

疲労。

睡眠不足。

慢性的なストレス。

不安。

抑うつ。

家族関係の悪化。

社会的孤立。

仕事への嫌悪。

欠勤。

離職。

身体疾患。

そして、場合によっては生命に関わる重大な健康被害。

2.2 「まだ倒れていない」は安全ではない

「まだ病気になっていない。」

「まだ会社に行けている。」

「まだ仕事を完成させている。」

だから安全だとは限らない。

人間は限界まで頑張ってから突然停止するとは限らない。

小さな警告を長期間無視した結果、ある時点で重大な問題として現れることもある。

2.3 予防という考え方

本当に重要なのは、

「病気になった人を治療する」

だけではない。

病気になる前に、

「なぜそこまで働いているのか」

を問うことである。

厚生労働省も、過重労働による健康障害を防止するため、時間外・休日労働の削減、有給休暇取得促進、健康管理体制の整備、健康診断、必要に応じた医師による面接指導などを重要な対策としている(厚生労働省, 2025b)。

つまり、

治療より前に予防がある。

第3章

働きすぎる身体

3.1 身体には限界がある

人間の身体は機械ではない。

24時間動かし続けることを前提として設計されていない。

筋肉には回復が必要である。

脳にも休息が必要である。

心臓にも負担がある。

免疫系も睡眠や回復の影響を受ける。

だから、休息は「仕事の反対」ではない。

休息は身体の維持に必要なプロセスである。

3.2 長時間労働と心血管疾患

WHOとILOの共同研究では、週55時間以上働く人は、週35~40時間働く人と比較して、虚血性心疾患と脳卒中のリスクが高いことが示されている。

2016年には、週55時間以上の長時間労働に関連して、世界で推計745,000人が脳卒中または虚血性心疾患によって死亡したと推計された(WHO & ILO, 2021)。

この研究では、2016年に長時間労働に起因すると推計された死亡のうち、約398,000人が脳卒中、約347,000人が虚血性心疾患によるものだった(WHO & ILO, 2021)。

これは、日本だけの問題ではない。

世界的な問題である。

3.3 「もっと働く」ことの代償

長時間働けば、

「仕事が早く終わる」

と考えるかもしれない。

しかし、疲労が蓄積すると、

  • 集中力
  • 判断力
  • 注意力
  • 感情調整
  • コミュニケーション
  • 創造性

などにも影響する可能性がある。

したがって、労働時間を単純に増やすことが、常に成果の増加につながるとは限らない。

第4章

働きすぎる心

4.1 心の疲労は見えない

腕にギプスをしていれば、周囲は気づく。

しかし、

「何もしたくない」

「仕事に行くのが怖い」

「眠れない」

「常に緊張している」

「以前好きだったことが楽しくない」

という状態は見えにくい。

4.2 「普通に見える人」

職場で最も危険な誤解の一つは、

「普通に仕事をしているから大丈夫だろう」

という考え方である。

人は苦しみながらでも働けることがある。

笑いながらでも疲れていることがある。

会議で発言しながら、内心では限界に近づいていることもある。

4.3 バーンアウト

WHOはバーンアウトを、慢性的な職場ストレスが適切に管理されなかった結果として生じる職業上の現象として、ICD-11に位置づけている(WHO, 2019)。

バーンアウトには、一般に、

  • エネルギーの枯渇
  • 仕事から心理的に距離を置く
  • 職業上の有効感の低下

などが関連する。

これは単なる「忙しい一日」とは違う。

4.4 心理的安全性

Amy Edmondson(1999)は、チームにおける心理的安全性を、対人関係上のリスクを取ってもよいという共有された認識として研究した。

職場で、

「疲れています」

「仕事量が多すぎます」

「助けが必要です」

と言えることは重要である。

第5章

睡眠を失った社会

5.1 睡眠を削る

忙しい人は、最初に睡眠を削ることがある。

「あと一時間だけ。」

「この仕事を終えてから寝よう。」

「明日の準備をしてから寝よう。」

しかし睡眠は、仕事のために削る「余分な時間」ではない。

5.2 睡眠と仕事

睡眠不足は、注意力、判断、記憶、感情調整などに影響する。

つまり、睡眠を削って仕事を増やしても、その結果として仕事の質が下がる可能性がある。

5.3 夜のメール

夜遅くにメールを確認する。

「返信だけしておこう。」

そして別のメールを見る。

また別の問題を発見する。

結局、脳は仕事モードに戻る。

だから、

「仕事を終える」ことと「仕事について考えない」ことは別である。

心理的な終業時間も必要である。

第6章

家族が支払う見えない代償

6.1 働いているのは一人でも、影響を受けるのは家族全体

過労は労働者一人の問題ではない。

長時間労働をする人の家族も影響を受ける。

夕食を一緒に食べられない。

休日も仕事。

子どもの学校行事に参加できない。

配偶者との会話が減る。

親の介護が難しくなる。

家族の中に、

「仕事がいつも最優先」

という感覚が生まれる。

6.2 家族のために働いているのに

これは過労の最も悲しい矛盾の一つである。

「家族のために働いている」

と言いながら、

家族と過ごす時間を失っていく。

もちろん経済的支援は重要である。

しかし家族には、

時間、会話、愛情、存在

も必要である。

6.3 子どもに伝わるもの

子どもは親の給与額を理解できなくても、

「忙しくていつもいなかった」

という記憶を持つかもしれない。

だから、子どものために働くことと、子どもと生きることのバランスを考える必要がある。

第7章

孤独、疎外、そして人間関係の喪失

7.1 仕事が忙しいほど孤独になることがある

仕事が多い。

だから友人に会えない。

家族と話せない。

地域活動にも参加できない。

趣味もなくなる。

そして、人間関係が仕事関係だけになる。

7.2 人間は社会的存在である

人間は他者との関係の中で生きる。

信頼。

友情。

家族。

共同体。

所属感。

これらは心理的健康に関係する重要な要素である。

7.3 仕事仲間だけでは不十分

職場の人間関係は重要である。

しかし、人生全体を職場だけに依存することにはリスクがある。

退職したとき。

転職したとき。

部署が変わったとき。

役職が変わったとき。

職場の関係が変化する。

だから、仕事以外の人間関係も育てる必要がある。

第8章

「頑張れる人」が最も危険になるとき

8.1 高能力者の罠

仕事ができる人には、仕事が集まりやすい。

「この人ならできる。」

「任せても安心。」

「いつも完成させる。」

その結果、優秀な人ほど仕事を抱える場合がある。

8.2 信頼が負担になる

信頼されることは素晴らしい。

しかし、

「信頼されているから断れない」

という状態になると危険である。

能力が高い人ほど、

自分ができることと、自分が引き受けるべきことを区別する

必要がある。

8.3 「できる」と「すべき」は違う

私はできる。

しかし、私がやるべきなのか。

この二つは違う。

管理者がすべき仕事を部下が引き受ける必要はない。

チーム全体で分担すべき仕事を一人が背負う必要もない。

第9章

職場文化がつくる過労

9.1 個人だけの問題ではない

過労について、

「本人がもっと休めばよい」

と言うのは簡単である。

しかし、休めない文化が存在する場合はどうだろうか。

有給休暇を取ると、

「やる気がない」

と思われる。

定時で帰ると、

「仕事への責任感がない」

と思われる。

質問すると、

「能力が低い」

と思われる。

助けを求めると、

「弱い」

と思われる。

このような文化では、個人の意思だけで問題を解決することは難しい。

9.2 「昔はもっと働いた」

世代間比較も注意が必要である。

「私たちの時代はもっと働いた。」

だから、

「あなたも働くべきだ。」

という論理は、必ずしも合理的ではない。

過去の働き方が健康的だったとは限らない。

9.3 長時間労働を評価しない

組織が評価すべきなのは、

「何時まで会社にいたか」

ではなく、

「どのような成果を、どのような品質で、どれだけ持続可能な方法で達成したか」

である。

第10章

管理者と企業の責任

10.1 経営者は人間を管理する

経営者が管理しているのは、

売上だけではない。

設備だけでもない。

人間も管理している。

そして人間には限界がある。

10.2 過重労働防止

厚生労働省は、過重労働による健康障害を防ぐため、

  • 時間外・休日労働の削減
  • 年次有給休暇取得促進
  • 健康管理体制
  • 健康診断
  • 必要に応じた医師による面接指導

などを挙げている(厚生労働省, 2025b)。

10.3 組織の設計

過労が発生する場合、

「本人が弱い」

と判断する前に、

「組織の設計に問題はないか」

を見る必要がある。

人員配置。

業務量。

納期。

顧客要求。

会議。

デジタル連絡。

評価制度。

管理職教育。

これらすべてが関係する。

第11章

ハラスメントと心理的安全性

11.1 怒鳴ることはリーダーシップではない

「厳しくしないと人は育たない」

という考え方がある。

しかし、厳しさと侮辱は違う。

高い基準と人格攻撃も違う。

指導とハラスメントも違う。

11.2 恐怖で働かせる組織

恐怖によって短期的に仕事をさせることはできるかもしれない。

しかし、

恐怖 → 隠す → 報告しない → 問題が大きくなる

という循環が起きる可能性がある。

11.3 安全に「問題」を言える組織

健全な組織では、

「これは危険です」

「納期は難しいです」

「人が足りません」

「私は疲れています」

「この方法には問題があります」

と言える。

これは反抗ではない。

リスク管理である。

第12章

デジタル時代の「終わらない仕事」

12.1 職場の境界線が消える

以前は、

会社に行く。

働く。

会社を出る。

帰宅する。

という境界線が比較的明確だった。

現在は、

会社。

スマートフォン。

自宅。

メール。

クラウド。

オンライン会議。

という形で仕事がどこにでも存在する。

12.2 「つながっている」ことのコスト

つながっていることは便利である。

しかし、常時接続には心理的コストもある。

「何か起きていないか」

「メールが来ていないか」

「返信しなければ」

という緊張が続く。

12.3 デジタル・ディスコネクション

組織は、

「いつでもつながれる」

ではなく、

「必要なときだけつながる」

という文化を目指す必要がある。

第13章

若者、キャリア、そして未来

13.1 最初の職場が人生を決めるわけではない

若い人は、

「最初の会社で成功しなければならない」

と考えることがある。

しかしキャリアは長い。

最初の職場。

転職。

再教育。

研究。

起業。

専門職。

教育。

さまざまな可能性がある。

13.2 若者に必要なのは「忍耐」だけではない

若者に必要なのは、

  • 専門知識
  • 適応力
  • 批判的思考
  • コミュニケーション
  • 健康管理
  • 金融リテラシー
  • 人間関係
  • 自己理解

である。

13.3 「働くこと」を教える教育

教育機関は、

「どうやって就職するか」

だけではなく、

「どうやって健康的に働くか」

も教える必要がある。

第14章

女性、男性、子育て、介護と過労

14.1 一人ひとりの生活は違う

同じ会社でも、

独身の人。

子どもがいる人。

高齢の親を介護している人。

障害のある家族を支えている人。

配偶者が病気の人。

さまざまな生活背景がある。

14.2 「全員同じ働き方」は公平とは限らない

形式的に全員を同じように扱うことが、必ずしも実質的な公平を意味しない。

必要なのは、責任と成果を維持しながら、多様な生活状況にも対応できる仕組みである。

14.3 家族責任とキャリア

子育てや介護を理由にキャリアが中断される場合がある。

したがって、

柔軟な勤務。

休暇。

復職支援。

在宅勤務。

短時間勤務。

業務分担。

などを組み合わせることが重要になる。

第15章

仕事の意味を再考する

15.1 なぜ働くのか

人はなぜ働くのか。

お金。

社会貢献。

自己実現。

専門性。

家族。

誇り。

所属。

使命。

人によって答えは違う。

15.2 「仕事=人生」という思想

仕事を人生の中心に置くこと自体が必ずしも悪いわけではない。

問題は、

本人が自由に選んだのか、それとも社会的圧力によってそうなったのか

である。

15.3 意味のある仕事

意味のある仕事とは、必ずしも高収入の仕事ではない。

人を助ける。

教育する。

研究する。

製品を作る。

社会を支える。

家族を支える。

地域に貢献する。

どの仕事にも意味を見つけることができる。

しかし、意味がある仕事でも、人間を壊すほどの働き方は持続可能ではない。

第16章

休息は生産性の敵ではない

16.1 休むことへの罪悪感

「休んでいる場合ではない。」

この言葉を自分に言ったことがある人は多いだろう。

しかし、休息は仕事から逃げることではない。

16.2 回復

仕事。

回復。

仕事。

回復。

この循環が必要である。

筋肉も回復する。

脳も回復する。

感情も回復する。

人間関係も回復する。

16.3 休息を予定に入れる

「時間があれば休む」

ではなく、

休息を予定に入れる。

これが重要である。

睡眠。

昼休み。

休日。

有給休暇。

家族との時間。

趣味。

運動。

これらを「余った時間」にしない。

第17章

個人にできること

17.1 自分の限界を知る

次の質問に答えてみよう。

私は最近よく眠れているか。

朝起きることが苦しくないか。

以前好きだったことを楽しめているか。

仕事以外の人間関係があるか。

休日に仕事から離れられるか。

食事は規則的か。

運動しているか。

仕事について常に不安を感じていないか。

17.2 「NO」を学ぶ

「できません」

ではなく、

「この期限では品質を維持できません。」

「優先順位を決めていただけますか。」

「Aを今日行うならBは明日にする必要があります。」

このように伝える。

17.3 助けを求める

助けを求めることは敗北ではない。

同僚。

上司。

家族。

友人。

産業医。

医師。

心理職。

労働相談機関。

必要な専門家に相談する。

深刻な身体症状、精神症状、自傷・自殺に関する考えなどがある場合は、自己管理だけで対応せず、速やかに医療・緊急支援につながることが重要である。

第18章

組織にできること

企業が本当に過労を防止するためには、「従業員に休むよう伝える」だけでは不十分である。

18.1 仕事量を測る

一人あたりの業務量を把握する。

18.2 人員を見直す

恒常的な残業が続くなら、人員配置を再検討する。

18.3 会議を減らす

すべての会議が必要とは限らない。

18.4 メール文化を見直す

緊急性のない連絡を深夜・休日に送らない。

18.5 管理職を評価する

管理職を、

「どれだけ部下を働かせたか」

ではなく、

「どれだけ健全で成果の高いチームを作ったか」

で評価する。

18.6 健康指標を経営指標にする

組織のダッシュボードに、

売上。

利益。

顧客満足。

だけでなく、

残業。

休暇取得。

離職。

欠勤。

健康相談。

心理的安全性。

などを含めることも考えられる。

第19章

社会にできること

19.1 法律だけでは十分ではない

法律は重要である。

しかし、法律だけで文化は変わらない。

社会全体が、

「長時間働くほど偉い」

という価値観を見直す必要がある。

19.2 メディア

メディアも、

「朝から深夜まで働く成功者」

だけを成功モデルとして描くのではなく、

健康的で持続可能な働き方も紹介する必要がある。

19.3 教育

学校や大学でも、

  • 労働法
  • メンタルヘルス
  • キャリア
  • 金融
  • ワーク・ライフ・バランス
  • 職場の権利
  • 相談方法

などを教えることが重要である。

19.4 政策

日本政府の過労死等防止政策は、長時間労働削減だけでなく、メンタルヘルス、ハラスメント防止、調査研究、啓発、民間団体への支援などを含む(厚生労働省, 2025a)。

これは重要な方向性である。

過労を防ぐには、一つの施策だけでは不十分だからである。

第20章

過労死を超える未来

20.1 目標は「死なない」だけではない

過労死を防ぐことは最低限の目標である。

しかし、それだけでは十分ではない。

私たちが目指すべきなのは、

健康に働くことができる社会

である。

さらに、

健康に働きながら、豊かに生きることができる社会

である。

20.2 仕事と人間性

人間は生産単位ではない。

従業員番号ではない。

給与明細ではない。

勤務時間ではない。

役職でもない。

人間である。

20.3 新しい成功の定義

未来の組織では、

「誰が最も長く働いたか」

ではなく、

「誰が最も持続可能な方法で価値を生み出したか」

を考えるべきである。

20.4 新しい企業文化

未来の企業は、

長時間労働を称賛する企業ではなく、

効率。

創造性。

協働。

健康。

信頼。

柔軟性。

学習。

心理的安全性。

持続可能性。

を重視する企業になる必要がある。

第21章

30日間の回復と再設計プログラム

第1週――警告を認識する

1日目

現在の疲労度を0~10で記録する。

2日目

睡眠時間を記録する。

3日目

一日の労働時間を記録する。

4日目

最も大きなストレス要因を3つ書く。

5日目

仕事以外で失っている時間を確認する。

6日目

家族との時間を確認する。

7日目

一週間を振り返る。

第2週――境界線を作る

8日目

仕事終了時間を設定する。

9日目

不要な通知を停止する。

10日目

メール確認時間を設定する。

11日目

昼休みを確保する。

12日目

仕事を一つ委任する。

13日目

休日の仕事を減らす。

14日目

一週間を振り返る。

第3週――人生を回復する

15日目

十分な睡眠を取る。

16日目

30分歩く。

17日目

家族と食事する。

18日目

友人と話す。

19日目

仕事以外の本を読む。

20日目

自然の中で時間を過ごす。

21日目

静かな時間を持つ。

第4週――人生を再設計する

22日目

人生で大切な5つの価値を書く。

23日目

仕事の優先順位を整理する。

24日目

不要な業務を一つ削る。

25日目

上司と業務量について話す。

26日目

家族との時間を予定表に入れる。

27日目

休暇を計画する。

28日目

3か月後の健康目標を決める。

29日目

「これからやめること」を5つ書く。

30日目

「これから大切にすること」を5つ書く。

終章

人間は仕事より大きい

ある人が朝早く起きる。

家族がまだ眠っている。

静かな家を出る。

電車に乗る。

会社へ向かう。

一日中働く。

夜遅く帰宅する。

家族はすでに眠っている。

そして翌朝、また出ていく。

これを何年も繰り返す。

やがて、その人は思う。

「私は何のために生きているのだろう。」

この問いは、怠け者の問いではない。

弱い人の問いでもない。

これは、

人間として生きる意味を取り戻そうとする人の問い

である。

仕事は大切である。

しかし、人間は仕事より大きい。

会社は大切である。

しかし、人間は会社より大きい。

給与は大切である。

しかし、人間の価値は給与より大きい。

役職は大切である。

しかし、人間の尊厳は役職より大きい。

だから、

過労死をゼロにすることは重要である。

しかし、その先にはさらに大きな目標がある。

それは、

誰も壊れるまで働かなくてもよい社会をつくること。

働きながら健康でいられる社会をつくること。

仕事をしながら家族を愛する時間を持てる社会をつくること。

成功と健康を対立させない社会をつくること。

人間の尊厳を生産性より下に置かない社会をつくること。

それが、「過労死を超える」という意味である。

著者からのメッセージ

働くことは尊い。しかし、生きることも尊い。

私は本書を、仕事に疲れているすべての人に捧げたい。

会社員。

教師。

医師。

看護師。

研究者。

経営者。

管理職。

建設労働者。

運転手。

IT専門家。

飲食業従事者。

介護職員。

学生。

起業家。

そして、家族を支えるすべての人へ。

あなたが一生懸命働いていることには価値がある。

あなたの努力には意味がある。

あなたが家族を支えていることにも価値がある。

しかし、

あなた自身の健康も、その価値の中に含まれている。

だから、

休んでください。

相談してください。

助けを求めてください。

必要なら仕事の方法を変えてください。

必要なら職場を変えることも検討してください。

そして、仕事の外にある人生をもう一度見つけてください。

あなたの人生には、

家族との笑いがあります。

友人との会話があります。

自然があります。

学びがあります。

信仰があります。

夢があります。

愛があります。

そして、

あなた自身がいます。

最後の言葉

過労死を超えて

私たちの目標は、

「死ぬまで働くこと」

ではない。

「壊れるまで働くこと」

でもない。

「会社のために自分を犠牲にすること」

でもない。

私たちが目指すべきなのは、

健康に働き、豊かに生き、愛する人々と時間を過ごし、社会に貢献しながら、自分自身の尊厳を守る人生

である。

仕事は人生を支えるものであって、

人生を奪うものであってはならない。

だから、

過労死を超えて。

その先にあるのは、

単なる「長時間労働の削減」ではない。

その先にあるのは、

人間らしい働き方。

人間らしい職場。

人間らしい企業。

そして、

人間らしい人生。

参考文献

End References

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著者紹介

Prof. Dr. Larry Adams

Prof. Dr. Larry Adams is an academic, professor, doctoral studies educator, researcher, academic supervisor, and higher-education leader with professional interests spanning doctoral education, leadership, management, organizational development, research methodology, education, workplace well-being, and sustainable institutional performance.

His academic and professional interests include the relationship between human development and organizational effectiveness, with particular attention to ethical leadership, education, research, human dignity, and sustainable approaches to professional life.

In this volume, Prof. Dr. Larry Adams examines overwork not simply as a labor-management issue, but as a human, organizational, family, social, and public-health issue.

The central argument of this book is that preventing karōshi is only the beginning. A truly healthy society must move beyond preventing death and toward creating conditions in which people can work, recover, maintain meaningful relationships, contribute to society, and live with dignity.

SERIES III

WORK, PRESSURE AND THE JAPANESE WORKPLACE

第11巻

強くあり続けることに疲れたあなたへ
― You Don't Have to Be Strong All the Time ―

第12巻

仕事が人生のすべてになったとき
― When Work Becomes Your Whole Life ―

第13巻

過労死を超えて――働きすぎの先にあるもの
― Beyond Karōshi: The Human Cost of Overwork ―

本シリーズの中心的メッセージ

働くことは、人間の尊厳を表現する一つの方法である。

しかし、

人間の尊厳そのものが、働く時間や仕事の成果によって決まるわけではない。

人間には働く権利がある。

休む権利もある。

家族と生きる時間がある。

健康を守る権利がある。

助けを求める権利がある。

そして、

仕事をしながら人間らしく生きる権利がある。

Prof. Dr. Larry Adams

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